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【連載シリーズ:感情と法のはざまで】 第1話「家族というインフラ」

第1話「家族というインフラ」~暮らしと感情のメンテナンス

 

家族は目に見えないけれど、暮らしの感情の基盤であり、人生の最初に与えられる社会的なインフラです。法律では定義できない絆や距離感について、行政書士の現場から感じたことを綴ります。

 

 

🌱 はじめに

 

あなたにとって「インフラ」とは何を指しますか?

多くの方が、「自宅」「電気」「水道」「ガス」「鉄道」など、生活に欠かせない基盤を思い浮かべるかもしれません。これらは、目に見えて、止まるとすぐに困るからこそ、常に整備され続けています。

でももう一つ、見えづらいけれど確かに存在する、私たちの暮らしの土台があります。

それは——家族です。

家族というインフラは、生まれた瞬間に自然と組み込まれます。分娩の事実で親子関係が生じ、法律婚が成立していれば父親が記載される——まるで自分の家系図の場所が生まれる前から決まっているかのような、不思議な関係性。

この見えないインフラは、人によって盤石で安心できるものでもあれば、脆く不安定で、傷つきやすいものでもあります。
そして、年齢とともにその形も濃度も変化していきます。

 

 

🧰 暮らしと関係のメンテナンス

 

私たちはマンションには修繕積立金を計画的に設け、道路には定期的な点検と舗装工事を行います。命と暮らしに関わるからこそ、予算も人手もかけて維持されていきます。

けれども、家族というインフラに対してはどうでしょうか?

関係性のひび割れは目に見えず、静かに進行してしまうこともあります。気づいた時には修復が難しいほど遠ざかってしまっていることもある。だからこそ、そっと気づくことが、何よりのメンテナンスになるのです。

 

📅 家族のインフラ点検マニュアル

 

🕰️ タイミング🔍 点検する視点💬 メンテナンスのアクション
還暦・古希・喜寿・傘寿などの節目親の暮らし・健康・心の変化電話・訪問・「最近どう?」のひとこと
誕生日・記念日感謝や関心を伝える機会LINE・メールで「元気でいてね」「ありがとう」
年賀状・暑中見舞い季節の節目に距離を見直す年数回のハガキや便り、絵柄の一言
家族の集まりや法事疎遠な親族との再接触「話せて嬉しかった」「また会いたいね」と一言
実家訪問・墓参り昔の記憶から関係を見直すアルバムや思い出話を「この頃はね」と語る
相続や介護の兆し財産と感情の整理遺言・家族信託・メモなどで想いを記録しはじめる

💡 家族の点検は、頻繁でなくてもかまいません。
ほんの一言が、関係性の整備になることもあります。

 

 

🧭 心を込めた整理のかたち

 

実際にご相談を受けた中に、こんなお話がありました。

財産が不動産しかないご家庭で、親の介護を担った娘さんがその家を引き継ぎ、他の兄弟姉妹は金銭を受け取ることで納得したケースがありました。

その娘さんは、将来お子さんへ承継する見通しが立ち、一安心。兄弟たちも、介護の場が確保されたことで安堵し、関係がなだらかに整っていきました。誰かだけが負担を背負うのではなく、それぞれの立場が思いやられていた——そんな柔らかな合意のかたちでした。

家族のメンテナンスは、必ずしも大がかりではなくていいのです。
小さな気づかいや、そっと差し出す言葉の温度が、関係を支えてくれます。

 

 

🌿 おわりに

 

人生の最終局面で訪れる遺言や相続は、法律のルールに沿って淡々と進みます。
誰が何を受け取るか、手続きは整っているように見えます。

けれども、その裏側には、家族というインフラの履歴があります。
何十年という関係の中で育まれた記憶、感情、すれ違い——それが、ひとつの財産の分配の形を左右することもあります。

遺言は、法的な意思表示であると同時に、人生の答え合わせでもあります。
だからこそ、日々の中での小さなふれ合いが、最後に“納得できるかたち”として力を発揮するのです。

今、少しだけでも。
大切な関係に目を向けてみませんか。
家族というインフラに、そっと手をかけること——それが、未来の安心を支える一歩になるはずです。

人の気持ちは法律でははかり知れず、その狭間にある感情こそが遺言時、相続時に思いの外大事になるのです。

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