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映画『アイ・アム まきもと』に学ぶ孤独死・多死社会の現実|行政書士が紐解く「終活」と新しい弔いの形

映画『アイ・アム まきもと』と、これからの日本で「人を弔う」ということ

――行政書士として考える、孤独死・多死社会・単身化の行方

山形県の庄内地方にある、とある市役所の「おみおくり係」。

この設定を聞いて、名作映画『おくりびと』を思い浮かべる方もいるかもしれません。しかし、映画『アイ・アム まきもと』(阿部サダヲさん主演)が描くのは、もっと現実的で、もっと切実で、今の日本が直面している“死の風景”そのものです。

行政書士として日々“死後の手続き”や“終活”に関わる立場から、私はこの映画を単なるフィクションとして観ることはできませんでした。ここには、私たちが目を背けてはならない現実の縮図があります。

■ 映画『アイ・アム まきもと』のあらすじ

主人公の牧本壮(まきもと・つよし)は、市役所の「おみおくり係」として働く職員です。彼の仕事は、身寄りなく亡くなった「孤独死(孤立死)」の遺体を引取り、火葬・埋葬すること。

しかし、牧本は普通の公務員ではありませんでした。ちょっと空気が読めないけれど、まっすぐすぎるほど真面目な彼は、亡くなった方の部屋を隅々まで調べ、わずかな手がかりからその人の人生を丁寧にたどります。そして、疎遠になった遺族をわざわざ探し出し、時には自腹を切って葬儀を行い、遺骨を市役所で保管しながら「その人を忘れない」ためにアルバムを作るのです。

誰にも褒められず、誰にも感謝されず、それでも“その人の物語”を探そうとする彼の行動は、周囲からは「非効率な迷惑行為」として映っていました。

そんなある日、新しく赴任してきた合理主義の上司から「おみおくり係の廃止」を告げられます。さらに、身寄りなしとして処理されようとしていた老人・蕪木の部屋で、牧本はある古い写真を見つけ、彼の人生の軌跡を追う最後の「おみおくり」へと奔走することになります。

■ 「死者の尊厳」と「行政の限界」の狭間で

劇中、合理性を重んじる新しい上司は、牧本にこう言い放ちます。

「葬式は遺族のためにある。遺族が拒否するなら葬式は不要だ。死んだら無だ」

この対比は、まさに今の日本社会が抱える矛盾そのものです。

  • 「死者の尊厳」と「行政の限界」

  • 「人を弔う気持ち」と「制度としての割り切り」

上司が言った「割り切り」は冷酷に聞こえますが、現実の行政現場が破綻しかけていることの裏返しでもあります。なぜなら、映画が公開された当時よりも、現在の日本における「孤独死」や「引き取り手のない遺体」を取り巻く数字は、さらに深刻な領域へと突入しているからです。

■ 日本の孤独死の現状(2024年確定値)

内閣府の調査によれば、2024年の孤立死は 21,856人。死後4日以上経過したケースにまで広げると、その数は 31,843人 にまで跳ね上がります。その内訳を見ると、「65歳以上が7割」「男性が8割」を占めており、年齢別では70代・80代が突出しています。

80代以上 | ████████ 4,207
70代     | █████████████ 8,321
60代     | ████████ 5,409
50代     | ████ 2,740
40代以下 | ██ 1,046

孤独死は、もはや「身寄りのない特別な誰か」の身に起こる特殊な事件ではありません。今の日本における“普通の老い方、不慮の結末”の一つになりつつあるのです。

■ 行旅死亡人の増加と行政の限界

引き取り手のない遺体を自治体が火葬・埋葬する「行旅死亡人(こうりょしぼうにん)」。厚生労働省の衛生行政報告例によると、2024年の件数は 3,006件 に達しました。

2020年   | ████ 2,200
2021年   | █████ 2,400
2022年   | ██████ 2,700
2023年   | ███████ 2,900
2024年   | ████████ 3,006(確定)

数字が見せる右肩上がりのグラフの通り、現場の負担は深刻です。自治体の保管スペースや予算、そして何より担当職員の事務負担は限界に近づいています。牧本のように、一人の故人に何日も寄り添い、アルバムを作るような「丁寧すぎる弔い」を、すべての市民に施すことは物理的に不可能な時代を迎えています。

■ 2040年、誰もが「単身」で「多死」を迎える社会へ

さらに、国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の死亡者数は2040年前後に年間160万人規模でピークを迎えるとされています。

2020年   | ███████████ 138万人
2030年   | ███████████████ 150万人
2040年   | ████████████████████ 160万人(ピーク)

人口は減るのに、亡くなる人は増える。私たちはこれまでの歴史で経験したことのない「多死社会」のピークへ向かって突き進んでいます。

これに拍車をかけるのが「単身化(ソロ社会化)」です。2040年には、全世帯の約40%が単身世帯(一人暮らし)になると推計されています。

1980年   | ██ 19%
2000年   | ████ 27%
2020年   | ███████ 36%
2040年   | █████████ 40%(推計)

2020年の国勢調査では、生涯未婚率が男性28.3%、女性17.8%。映画の中で牧本が漏らした「男性の孤独死は独身が多い」という言葉は、まさにこの統計データが証明する通りの現実です。

■ 家族だけに頼らない、新しい弔いの形をデザインする

行政がすべてを担う時代は終わり、家族の形も変わりつつある今、私たちはどうすればいいのでしょうか。

行政書士として実務に携わる中で痛感するのは、「制度(法律・行政)」と「人の気持ち」の両方をつなぐ、生前からの仕組みづくりの重要性です。

  1. 生前の意思表示(死後事務委任契約・エンディングノートの活用)

    自分が亡くなった後の葬儀や埋葬、遺品整理の方針を生前に契約・記録しておくことで、自分の尊厳を守り、周囲や行政の負担を減らすことができます。

  2. 地域社会での孤立を防ぐ、ゆるやかなコミュニティのつながり

  3. 行政・民間(専門職)・地域が一体となった協働体制

「家族がなんとかしてくれる」「最後は役所がやってくれる」という前提を捨て、私たちは自分自身の最期を、元気なうちから主体的にデザインしていく必要があります。

■ 最後に:牧本の“まっすぐさ”が問いかけるもの

誰しもに、その人だけの人生があり、固有の物語があります。

誰にも知られず、誰にも見送られずに最期を迎えることは、生きている側の視点から見れば、たまらなく寂しいことに思えます。

けれど、旅立つ本人は、その瞬間に「孤独」を意識しているのでしょうか。それは誰にもわかりません。案外、静かで穏やかな最期なのかもしれません。

映画の終盤、ある不慮の事故で亡くなってしまった牧本のために、かつて彼が手厚く弔った人々が集まり、深く丁寧に手を合わせる場面があります。誰にも知られることのなかった牧本の誠実さが、静かに、しかし確かに報われた瞬間でした。

日本には古くから、こんな言葉があります。

「終わりよければすべてよし」

「お天道様(おてんとうさま)が見ている」

誰に気づかれなくても、あなたの生きてきた軌跡を、誰かがきっと見ている。

これからの多死社会を生きる私たちにとって、牧本の残した足跡は、「たとえ一人で最期を迎えても、人間の尊厳は失われない」という祈りのようにも思えるのです。

私たち行政書士は、その『誰か』の一部として、生前の備え(終活)から死後の手続きまで伴走する存在でありたいと思っています。「もし一人の老後や最期に不安を感じたら」「何から手を付ければいいか迷ったら」、いつでもお気軽にご相談ください。あなたの物語に寄り添い、確かな安心を形にするお手伝いをいたします。

孤独死(孤立死)に関するデータ

年齢別の孤独死(内閣府資料に基づく確定値)

  • 80代以上: 4,207人 / 70代: 8,321人 / 60代: 5,409人 / 50代: 2,740人 / 40代以下: 1,046人

  • 出所:内閣府HP

行旅死亡人(自治体が火葬を行った人数)

多死社会の将来予測

単身世帯率・生涯未婚率

  • 推計・実績: 2040年には全世帯の約40%が単身世帯に。生涯未婚率(2020年国勢調査)は男性28.3%、女性17.8%。

  • 出所:

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