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【話題の映画】映画「君たちはどう生きるか」から大切な人を失う喪失とソロレート婚について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ⑩】

【話題の映画】映画「君たちはどう生きるか」から大切な人を失う喪失とソロレート婚について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ⑩】

 

  • 「君たちはどう生きるか」の映画概要とあらすじについて
  • 大切な人を失ってから始まる喪失の物語映画
  • 戦中のソロレート婚について考えてみよう
  • お墓の中が産屋となる、死の中で生を感じ、生の中で死を感じる

 

それぞれ一つずつみていきたいと思います。

 

 

「君たちはどう生きるか」の映画概要とあらすじについて

 

「君たちはどう生きるか」は巨匠、スタジオジブリの宮崎駿監督の長編アニメーションです。2013年に公開された長編アニメーション「風立ちぬ」から10年、宮崎ファンが待ちに待った長編アニメーションです。

本作品の概要は以下、映画ドットコムさんの解説を一部そのまま引用させていただきます。「母親を火事で失った少年・眞人(まひと)は父の勝一とともに東京を離れ、「青鷺屋敷」と呼ばれる広大なお屋敷に引っ越してくる。亡き母の妹であり、新たな母親になった夏子に対して複雑な感情を抱き、転校先の学校でも孤立した日々を送る眞人。そんな彼の前にある日、鳥と人間の姿を行き来する不思議な青サギが現れる。その青サギに導かれ、眞人は生と死が渾然一体となった世界に迷い込んでいく。」

私の解釈としては、「第二次世界大戦の戦中、母親を亡くした少年が、喪失とは関係なく進む日常と自分の喪失のアンバランスに苦悩しつつ、壮大な生と死、食物連鎖の冒険に巻き込まれて進む映画」です。

今回の作品は、2023年7月14日の劇場公開の前に事前の広告、プロモーション活動が一切ないことも話題となりました。青い鳥(アオサギ)のポスターだけしか、作品の事前情報はなく、私も一切の情報を入れず劇場で観ました。YouTubeやブログなどでも、本作品に関する感想、分析が溢れていて、宮崎駿監督の本作品をどう理解するか、様々な視点、多大で複雑で難解な歴史的な情報もありました。

今回の私の本作品へのアプローチとして、物語自体の分析ではなく、行政書士視点で、戦中という時代背景の中で、自分の父親が亡き母親の妹と結婚するという「ソロレート婚」、主人公の少年が母親を失い喪失感を抱える中での冒険の間で共に進む、J・W・ウォーデンの「グリーフワーク」、最後に物語のなかでお墓であり、産屋である「石の棺」が「生と死」を象徴する意味について掘り下げていきたいと思います。

 

 

大切な人を失ってから始まる喪失の物語映画

 

主人公の眞人(まひと)は、映画序盤、火事で母親を亡くします。その一年後に父親と母親の実家に身を寄せることになります。そこで父の新しい妻であり自分の新しい母親が、自分の母親の妹で、自分の妹か弟を既に身ごもっている妊婦、という状況に若干混乱します。自分の喪失を置き去りにされ、父は既に新しい妻がおり、現実に自分の感情がついてゆかず、眞人は、学校での喧嘩の帰りに、自分で自傷行為を行い頭に傷をつけたり、人間の言葉を話す敵意あるアオサギを倒すために、弓矢を無心に手作りします。

映画の前半のこれらのシーンは、眞人の母を失った喪失に対する「死別の悲しみ」と戦っている印象を受けました。以前グリーフケアについてブログを書きましたが、今回の眞人が夏子さんを探しに異世界に飛び込む映画は、まさに眞人のグリーフケアの冒険であるように感じました。大切な人を失い、遺された人たちがグリーフ(悲しみ)に向き合い、折り合いをつけ、時間をかけて意味を見出していく作業をグリーフワーク(喪・悲嘆の仕事・作業)といいます。J・W・ウォーデンによると、グリーフワークの中で、遺された人たちが4つの課題に向き合い、遂行する中で、喪の作業を行うとされています。この作業は直線的に行われるのではなく、行きつ戻りつしながら、時間をかけて行われると考えられており、この4つの課題が全て遂行できた時に、喪失対象について苦悩なく思い出すといわれています。

眞人は物語終盤ヒミと出会い、夏子さんを、「夏子おばさん」から「夏子お母さん」と無意識に言い方を変える中で、母との辛い別れに折り合いをつけられるようになったのかもしれません。

(出所)児医療機関スタッフのための子どもを亡くした家族への支援の手引き

 

 

戦中のソロレート婚について考えてみよう

 

私が今回の映画の中で、行政書士の目線で気になったのは、眞人の父親が、眞人の亡き母親の妹と結婚するというくだりです。

 

以下ソロレート婚の説明となります。

ソロレート婚(ソロレートこん)またはソロラト婚(ソロラトこん)は、世界中で広くみられる二次婚のひとつ。妻が死んだ後、夫が妻の姉妹と結婚する慣習。

夫が死んだ後に妻が夫の兄弟と結婚する慣習は、レビラト婚という。

ソロレート婚の目的は、結婚によって培われた家族の資産が崩壊するのを防ぐことにある。日本では順縁婚(じゅんえんこん)ともいう。なお、ソロレート婚とレビラト婚(逆縁婚)を総称して日本ではもらい婚ともいう。明治初年に地方自治体で要許可制にしたところもあったとされるが、基本的に申請を行えば大部分は許可されていたという(出所)Wikipedia

 

以上の説明からもあるように、夏子さんの実家(眞人の亡き母の実家)は大変敷地の広い大きな池もあるような立派な豪邸でお屋敷には昔からのお手伝いのお婆さんが7人もいます。また父親は軍需産業に携わり軍需工場を夏子さんの実家近くにたて、新しい小学校に寄付金を300円もするようなお金持ちとして描かれています。父親が母親の実家に婿養子に入ったのか正確な姻族関係の描写がなかったのでわかりませんが、それぞれの実家が裕福で庶民からみれば、けた外れの財産を所持している印象を受けました。

時代背景も1940年代ということもあり、1945年の敗戦後に男女平等、個人の尊重など新民法が施行されますが、旧民法では「家制度」が親族関係の中心にあり個人より家が尊重されていました。眞人の父と夏子さんは愛情でも結ばれているようでしたが、戦前の家制度の存在を感じさせる映画でした。

 

 

お墓の中が産屋となる、死の中で生を感じ、生の中で死を感じる

 

眞人少年が大叔父に導かれる形で異世界である下の世界に迷い込み、黄金の門の中に立派な石棺が納められているのをみます。石棺は、死体を納める棺(ひつぎ)です。世界各地でさまざまな時代で使われています。黄金の門の装飾がヨーロッパ文化を彷彿させますが、真偽は不明です。日本でも縄文時代から弥生時代に石棺が見られ、古墳の中に埋葬されており、古墳時代の特色とされています。(出所)Wikipedia

また映画の中で姿が見えなくなった夏子さんが産屋(出産するための部屋)も同じ石棺の中にありました。まさにこれから生まれる命と、終わる命の納め所が同一であるという設定は、解説にあるような「生と死が渾然一体となった世界」、言い換えると「生と死が一体となって、区別ができない世界」を表しているような印象を受けました。他のシーンでも死と生が循環するさまが描かれており、宮崎駿監督の死生観を垣間見た気がしました。

今回は「君たちはどう生きるか」という映画にアプローチさせていただきました。とても壮大な大きな冒険ストーリーとなりますので、もしご興味があればぜひご覧いただければと思います。おそらく観た人の数だけの感動と解釈があるのではないかと思います。

 

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