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アニメ「夏目友人帳」から妖(あやかし)との一期一会の出会いと、優しさと儚さの先にある孤独感について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ⑳】

アニメ「夏目友人帳」から妖(あやかし)との一期一会の出会いと、優しさと儚さの先にある孤独感について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ⑳】

 

  • アニメ「夏目友人帳」のアニメの概要とあらすじについて
  • 妖(あやかし)との一期一会の交流で広がる世界と日本人の伝統的な価値観について
  • 夏目友人帳で感じる「孤独」の正体について考えてみよう
  • 夏目貴志がみつけたゆるやかなつながりで世界が広がる

 

それぞれ一つずつみていきたいと思います。

 

 

「夏目友人帳」のアニメ概要とあらすじについて

 

『夏目友人帳』(なつめゆうじんちょう)は、緑川ゆき氏による日本の漫画作品です。2007年9月号から白水社の『LaLa』で連載中の現在継続中の漫画作品です。

アニメシリーズは2008年から6作が放送され、2018年9月には劇場版が公開され、2024年秋にはファン待望の最新シリーズ7期「漆」がテレビ東京系列で放送予定です。アニメ化15年を迎えますが、年月を経ても色あせない独特の優しく切ない世界観でファンを魅了し続けている作品です。

あらすじは、高校生の主人公夏目貴志は両親と早くに死別し、親戚に引き取られますが、幼い頃から、他の人には見えないもの(妖=あやかしとは妖怪のようなもの)が見え、声も聞こえる特殊な力を持っており、引き取られた先で気味悪がれ、嫌悪され、親戚中をたらいまわしにされます。信頼できる大人にも友達も居ない寂しい幼少期、少年期を過ごします。高校生になり、穏やかで温かな子供の居ない藤原夫妻と一緒に暮らすことになります。ある日妖から「名前を返せ」と襲われ、偶然封印を解いた斑(まだら)は夏目貴志を、祖母の夏目レイコと間違え、夏目レイコの持っていた「友人帳」の存在を知ることになります。友人帳とは、貴志同様特殊な力を持ち孤独だったレイコが妖たちと勝負し、妖が負けた際に名前を友人帳に書き、自分の子分としていたのです。この友人帳を巡り、名前を返して欲しい妖、相談のある妖、レイコに会いに来た妖など、様々な妖と交流を持つことになります。斑(まだら)は言葉を話す頭の大きな猫(ニャンコ先生)として藤原家で飼われることとなり、貴志の用心棒となります。夏目貴志とニャンコ先生との友人帳に関わる妖との交流の物語です。

基本、一話完結で、舞台が自然豊かな場所の設定ですが、とても自然の描写が美しく季節の描写も観るのも楽しみの一つです。テーマ曲もどれも夏目友人帳の世界にあっています。周りに理解されず、嫌悪されて生きてきた夏目貴志が、藤原夫妻の元、ニャンコ先生と妖たちに名前を返す中で、一期一会の出会いの中にある妖たちの切なくも悲しく美しい物語に、いつしか人間と妖の間に友情に似た絆を築いていきます。またニャンコ先生や藤原夫妻との交流の中、初めて友人と呼べる存在もでき、夏目貴志の本来の孤独感は消えることはありませんが、徐々に薄まり、世界が広がっていきます。

個人的には、一番大好きなアニメで、このゆっくりで穏やかな世界観を今回ブログに書くことができ、とても嬉しいです。

(出所)WikipediaLaLa45周年特集

 

 

妖(あやかし)との一期一会の交流で広がる世界 と日本の伝統的な価値観について

 

夏目貴志にとって妖(あやかし)は本来天敵です。人間には見えない妖が見えてしまうため、周りとうまくなじめず、大人にも気味悪がれ、頼るべき大人にも心を許せる友達にも恵まれず、たった一人で生きてきました。また妖と関わり命を落とす危険もあります。しかし夏目貴志はニャンコ先生と共にレイコの友人帳に名前のある妖と一期一会の出会いの中で、祖母レイコの生きざま、また貴志のもとにやってきた妖たちのそれぞれの物語を知ることになり、本来天敵であり、人間と共存できないと考えられている妖たちとの間に絆が生まれていきます。人間の世界、妖の世界、人間の友人、妖の友人と世界も友人も広がっていきます。

この漫画の前提にある、妖(あやかし)、妖怪のような「目に見えないけれど存在するもの」に対して畏怖の念を持つ日本人の伝統的な価値観でしょう。

日本では、八百万の神という、自然の万物に神様が宿る、道端の道祖神やお地蔵さまがいつもきれいに掃除され、お供え物が奉られている、そんな風景をみたことがある人も多いのではないでしょうか。またアニメの中でもそのようなシーンが出てきますが、違和感なく自然に受け止めています。NHK出版の放送研究と調査の中で、宗教的感覚のデータがありますが、「お天道様がみている」という意識は過去の数値よりは低いですが、それでも6割強の人が持つ感覚です。また「山や川に神が宿るが理解できる」という質問には75%の人が理解があると答えています。

この夏目友人帳の世界は、そういう意味では薄れつつある日本の伝統的な価値観に程よくあうストーリーなのではないかと推察されます。

(出所)NHK出版の放送研究と調査 日本人の宗教的意識や感覚はどう変わったか

 

 

夏目友人帳で感じる「孤独」の正体について考えてみよう

 

本作品の中で、妖やニャンコ先生、仲間たちとの心の交流がメインテーマですが、夏目貴志の抱える孤独が時折垣間見えます。この孤独は貴志が幼少期から抱えてきた誰からも理解されない愛されない悲しみの時もありますが、妖の切ない一瞬、思った通りのハッピーエンドにならない結末など、物語の中で一期一会の妖たちと一瞬巡り合う時の切なさに近い感じがします。夏目友人帳のアニメに流れる静かなBGM、テーマソングなでも一貫して静かで落ち着いた優しい曲が多く雰囲気を盛り上げます。

作者の緑川先生はインタビューで「寂しいもの・悲しいものに重きを置きたいわけではないので、独りの寂しさの孤独よりは、寂しくないはずなのに、優しいものや儚いものを思うときに感じるあの感覚の孤独を、共感してもらえるように描ければと思っています。」と述べています。夏目友人帳には根強いファンが多いですが、この優しく儚いものと同時に感じる孤独感に心を揺さぶられるのかもしれません。

(出所)LaLa45周年特集インタビュー

 

 

夏目貴志がみつけたゆるやかなつながりで世界が広がる

 

以前、ゆるやかなつながりが大事だというブログを書きました。

アメリカの社会学者、マーク・グラノヴェッターがハーバード大学博士課程に在籍の際に行った調査から、「弱い紐帯の強み」という結果が出ました。

共同体での情報の伝播に関しては、よく知っている人より、どちらかといえば繋がりの薄い人から聞いた情報を元にしていたことが判ったのです。これは「よく知っている」人同志は同一の情報を共有することが多く、そこから新しい情報が得られる可能性は少ないが、「あまり知らない」人は自分の知らない新情報をもたらしてくれる可能性が高いからだと考えられています。(出所:Wikipedia

今から50年ほど前の研究ですが、今でも弱い紐帯=ゆるやかなつながりが大事、という考え方が提唱されています。

家族や友人など、同じ社会的な立場や階層に所属している人同士ですと、情報に偏り、世界が広がらないということなのでしょう。

現実の世界で居場所をなくし、孤独に生きてきた少年が、自然豊かな地域で親切な夫婦と生活を共にすることになり、自分が嫌い恐れていた妖たちと一期一会の出会いを繰り返す中で、ニャンコ先生と共に妖たちと絆を築いていく過程は、家族でも学校でもない第三の場所でゆるやかなつながりを生み出す過程ともとれます。そのゆるやかなつながりが、いずれ自分にとってかけがえのないものになっていくのでしょう。

 

夏目友人帳の一番の魅力は、やはり緑川先生が述べている「寂しくないはずなのに、優しいものや儚いものを思うときに感じるあの感覚の孤独」が読者、アニメの視聴者の琴線に響くのではないでしょうか。この感覚は、幼い時、若かりし時の輝く瞬間、胸の震えた瞬間、今は亡き人、今は会えない人との心を通わせた月日を思い出すときに似た、胸が少し痛む孤独感と郷愁です。

夏目友人帳の漫画も続いています。第8期のアニメが楽しみです。

 

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