- Home
- 地域共生社会, 話題の映画・ドラマ・アニメブログ
- 映画「幻の光」から大切な人を失った女性のグリーフワーク(喪の作業)と祈り唄について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ41】
ブログ
12.202025
映画「幻の光」から大切な人を失った女性のグリーフワーク(喪の作業)と祈り唄について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ41】

映画「幻の光」から大切な人を失った女性のグリーフワーク(喪の作業)と祈り唄について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ41】
- 映画「幻の光」の映画概要とあらすじについて
- グリーフワーク(喪の作業)とはなんでしょうか
- 奥能登の豊かな地縁血縁社会と祈り唄ついて考えてみよう
- 奥能登の原風景を伝える映画です
それぞれ一つずつみていきたいと思います。
映画「幻の光」の映画概要とあらすじについて
『幻の光』は、宮本輝の小説作品です。1995年に是枝裕和監督によって映画化されました。またこの作品は是枝監督の長編デビュー作として知られています。是枝作品は本ブログでも多数紹介させていただいております。
本作品は数々の映画賞を受賞しています。第52回ヴェネツィア国際映画祭 撮影賞(中堀正夫)バンクーバー映画祭 グランプリ、シカゴ映画祭 グランプリ、日本アカデミー賞 新人俳優賞(江角マキコ)、第38回ブルーリボン賞 新人賞(江角マキコ)、第10回高崎映画祭 若手監督グランプリ(是枝裕和)、第1回新藤兼人賞 金賞(是枝裕和)
出演は本作品が初出演となり、今は既に芸能界を引退している江角マキコ、共演は前夫に浅野忠信、再婚相手に内藤剛志、木内みどり、柄本明の実力派俳優達が脇を固めています。
恐らく昭和40年前後の大阪で暮らすゆみ子(江角マキコ)は12歳の時、認知症を患っていた祖母が四国に帰ると家を出、その後祖母は家に戻って来ず失踪してしまいました。その経験は多感な少女だったゆみ子の心に深い傷を残します。13年の月日が経ち、ゆみ子は幼馴染の郁夫(浅野忠信)と結婚し、二人は幸せに暮らします。子宝にも恵まれ、3か月前には息子も生まれたばかりです。しかしある日、郁夫は自転車の鍵だけを残して列車に飛び込み、自ら命を絶ってしまいます。自殺の理由がわからないゆみ子は思い悩み、深く傷つきます。息子勇一を一人で育てますが、5年後奥能登の小さな村に住む民雄(内藤剛志)と再婚します。民雄にも死別した前妻との娘、友子がいます。友子はゆみ子が自分の母親になってくれることを喜びます。友子と勇一は仲良くなり、義理父の喜大(柄本明)も勇一を分け隔てなく可愛がり、ゆみ子は奥能登で初めて平穏な生活を手に入れます。しかし、ゆみ子の弟の結婚式で大阪に戻った折に再び亡夫、郁夫との生活を思い出し、郁夫の死に気持ちが揺らいでいきます。不安定になるゆみ子はある日、葬式の列を見、無意識のうちにその列の最後尾に並び、能登の海の岩場で棺が燃えるのを一人見つめます。ゆみ子を探しにきた民雄に、「なぜ郁夫は黙って死んでしまったのか。私にはわからない」と心の内を叫びます。民雄は昔漁師だった父喜大が、「海に誘われるんだ。沖の方に綺麗な光が見えて自分を誘うんだ」という言葉を思い出し、「誰にもそんな瞬間がある」とゆみ子の言葉に応えます。冬を超えた陽光の春、ゆみ子は晴れやなか顔で春の到来を喜びます。
ゆみ子は祖母と前夫というとても大事な人を立て続けに亡くし、その喪失を時間をかけて回復していく軌跡、グリーフワーク(喪の作業)が描かれています。突然不安気になり、気持ちが内側に閉じていく様子を江角マキコさんが繊細に表現しています。またこのグリーフワークを手助けするのが、奥能登の雄大で手つかずの自然と、圧巻の海です。大自然が、海がゆみ子の心を癒していきます。そしてまた奥能登の自然を切り取る映像美が素晴らしく、印象的な映像が多々あります。特に夕暮れ間際の淡い薄紫の光の中で、岩場で燃やされている棺を眺める江角マキコさんのシルエットは一度観たら忘れることはできないでしょう。
非常に繊細な作品となっており、無意識の喪失がどのように受け入れられるのか丁寧に描かれた良作です。
(参考)Wikipedia、ムービーウォーカー、映画.com
グリーフワーク(喪の作業)とはなんでしょうか
グリーフとは、喪失と立ち直りの思いとの間で揺れる時のことを言います。
死別を経験しますと、しらずしらずに亡くなった人を思い慕う気持ちを中心に湧き起こる感情・情緒に心が占有されそうな自分に気づきます(喪失に関係するさまざま思い:「喪失」としてまとめます)。また一方では死別という現実に対応して、この窮地をなんとかしようと努力を試みています(現実に対応しようとする思い:「立ち直りの思い」としてまとめます)。この共存する二つの間で揺れ動き、なんとも不安定な状態となります。同時に身体上にも不愉快な反応・違和感を経験します。これらを「グリーフ」と言います。グリーフの時期には「自分とは何か」「死とは…」「死者とは…」など実存への問いかけをも行っています。
このような状態にある人に、さりげなく寄り添い、援助することを「グリーフケア」と言います。(上記原文引用:)一般社団法人日本グリーフケア協会
悲嘆(グリーフ)は、「喪失に対する全人的な反応(精神的、行動的、社会的、 身体的、スピリチュアル)、その経験のプロセスである。」(テレーズAランド)
またグリーフ(悲嘆)の一般的な反応としては以下の表で表されています。

(出所)児医療機関スタッフのための子どもを亡くした家族への支援の手引き
大切な人を失った悲しみは大変深いものですが、非常に個人的な経験のため、指紋や声紋のようにその方唯一の悲しみであり、ご本人を取り巻く周りの人がご本人と同じように気持ちを理解するのは、困難です。しかし、大切な人を失った際に、人は大変悲しみ深い悲嘆を感じる、という事実に寄り添えることが周りの人たちに求められることかもしれません。
グリーフワークについて、J・W・ウォーデンの4つの課題をみてみよう
大切な人を失い、遺された人たちがグリーフ(悲しみ)に向き合い、折り合いをつけ、時間をかけて意味を見出していく作業をグリーフワーク(喪・悲嘆の仕事・作業)といいます。J・W・ウォーデンによると、グリーフワークの中で、遺された人たちが4つの課題に向き合い、遂行する中で、喪の作業を行うとされています。この作業は直線的に行われるのではなく、行きつ戻りつしながら、時間をかけて行われると考えられており、この4つの課題が全て遂行できた時に、喪失対象について苦悩なく思い出すといわれています。

(出所)児医療機関スタッフのための子どもを亡くした家族への支援の手引き
奥能登の豊かな地縁血縁社会と祈り唄について考えてみよう
映画の中で、民雄は再婚相手のゆみ子を、近所の人たち、親族に紹介するシーンがあります。特に印象的なのが、親戚を集めて長テーブルで30人から40人を招き、お寿司にお酒が盛大にふるまわれます。そしてそこで歌われるのが祝い唄です。その祝い唄のシーンが大変心温まり、当時の地縁血縁の豊かなつながりが感じられました。
祝い唄とは、人々が何らかの行動を起こす際に、その成功や身の安全などを願って神々に祈る際に捧げる歌です。日本民謡の一種で、歌詞にはめでたさをたたえたり、神々の力を褒めたたえたりする傾向があります。
祝い唄には、次のようなものがあります。
- 正月や婚礼の祝い唄:行動を起こす前に行うもの
- 大漁節など:行動が終了した後に成果を感謝して行うもの
- 年中行事唄:暦と結び付いて定期的になったもの
- 建築の木遣唄:建築の慶事の際に歌われる
- 大漁唄:大漁や新造船の慶事の際に歌われる
- 長持唄:婚礼の慶事の際に歌われる
奥能登にもたくさんの民謡があるそうで、被災地慰問で奥能登の民謡が歌われたという記事もありました。
奥能登の原風景を伝える映画です
2024年1月1日午後4時過ぎに、奥能登で大きな地震が起こり(能登半島地震)、能登では甚大な被害が生じました。映画の中に映っていた活気の溢れた有名な輪島の朝市、その輪島が火の海に包まれてしまいました。映画の中で厳しくも美しく圧倒的な自然美だった海岸線、木造家屋が原型を残さず破壊されてしまいました。その後2024年9月に発生した「令和6年(2024年)奥能登豪雨」による能登半島の被害状況は、短時間での大雨で被災地に大量の雨が流れ込み、人命が失われる大きな被害が出ています。奥能登はこの一年間で二度の大規模な災害に見舞われ、被災地に住む多くの人が苦しんでいます。
本作品は2024年8月、同年1月に能登半島で起きた地震で大きな被害を受けた、本作の舞台でもある石川県輪島市を支援するため、デジタルリマスター版でリバイバル公開されました。インタビュー記事の中で、この壮大で幻想的な映画「幻の光」が世の中に生まれることができたのは、奥能登、輪島の人たちの温かな支援、応援があったからだそうです。
本作品には余すところなく、奥能登の壮観な自然美、崖に海、木造家屋、輪島の元気な朝市が映し出されています。
奥能登の復興を心から応援したいと思います。
Views: 0







