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映画『夜明けのすべて』感想|治らない生きづらさと「受援力」がひらく、半径3メートルの希望

映画『夜明けのすべて』を観たきっかけは、正直に言えば松村北斗さん(山添孝俊 役)への“推し”でした。

『ファーストラヴ』『九条の大罪』で見せた類まれな存在感、声、そして台詞の間に生まれる一瞬の“間”。美しい容貌を持ちながら、作品の中ではその美しさが前に出ず、役だけが鮮やかに残る稀有な俳優だと思っています。

けれど、観終わったあとに胸に残ったのは、推し活の満足感だけではありませんでした。瀬尾まいこさんの原作らしい、静かで、優しくて、そしてどこか“人生の本質”に触れるような余韻が長く続きました。

【あらすじ】

月に一度、PMS(月経前症候群)で自制できない怒りに襲われる藤沢さん(上白石萌音)。転職先のアットホームな栗田科学で、やる気がなさそうに見える同僚・山添くん(松村北斗)の些細な振る舞いをきっかけに、彼女は怒りを爆発させてしまいます。しかし、山添くんもまた、パニック障害によって以前のキャリアも恋人も失い、人生に絶望している最中でした。

「恋人でも友達でもない」けれど、職場の同僚として少しずつ相手の事情を知り、支え合おうとする二人の日常が静かに動き出します。

■ 「受援力」が閉ざした心を開いていく

私が日頃から大切にしている言葉に「受援力(助けを求める力、助けを受け入れる力)」があります。この映画は、まさにこの受援力が循環し始める瞬間を鮮やかに描いていました。

当初、PMSの症状で突拍子もない怒りをぶつけてくる藤沢さんに対し、山添くんは「変な人とは関わらないようにしよう」と距離を置いていました。しかし、藤沢さんの度重なる、時に過剰ともいえるお節介の勢いに押され、彼はついにその手を受け入れます。

山添くんが藤沢さんの差し出した「受援力」を受け入れた瞬間から、彼の閉ざされていた世界は徐々に変わり始めました。助けを受け入れた山添くんは、今度は自ら藤沢さんの病気に関心を持ち、観察し、注意を払い、彼女の痛みに寄り添うようになります。

恋愛関係にはならない。距離を縮めすぎることもない。ただ、同僚として“お互い様”の関係性が生まれたことで、二人の日常には確かな光が差し込みました。その小さな善意は、栗田社長(光石研さん)をはじめとする職場全体に静かに広がっていきます。

■ 理由のわからない喪失と、起承転結のない人生の自然さ

映画には、大切な人を亡くした経験を持つ人たちが登場します。栗田社長は弟を自死で失い、山添くんの前職の同僚・辻本さん(渋川清彦さん)は姉を過労死で亡くしています。

なぜ彼らは突然いなくなってしまったのか。その理由は永遠にわかりません。けれど、人生とは本来そういうものなのだと思います。理由がわからないまま、痛みを抱えたまま、時間だけが前へ進んでいく。

起承転結のない物語を、私たちはそれぞれの速度で歩いていく。映画が描くその“未完のまま続いていく感じ”が、とても自然で、優しいと感じました。

■ 治らないものを抱えたまま生きるという現実

PMSもパニック障害も、簡単に治るものではありません。多くの場合、それは「治る」よりも「付き合っていく」ものです。

映画の二人は、治らない現実を否定せず、そのままの形で受け入れながら日々を過ごしています。その姿は、決して特別ではなく、むしろ多くの人がそうやって生きているのだと気づかせてくれます。

素晴らしい感動に包まれたとしても、また夜が来て、次の朝が来て、刻々と時間だけが流れていく。その“留まらなさ”を受け入れることこそ、人生を優しく見つめる視点なのだと思いました。

■ 半径3メートル以内の世界を大切にするということ

健康社会学者・河合薫さんは、「半径3メートル以内の人間関係を大切にすることが、自分を支える」と語ります。その著書にある「愛をけちるな」という言葉。愛とは、大きな行為ではなく、相手に少しだけ関心を寄せ、注意を払うこと。

まさにこの映画の二人が体現していた姿です。

執着しすぎず、半径3メートル以内の人に注意と関心を向けること。それこそが、私たちが生きていくうえで必要なすべてなのかもしれません。(参考 日経BOOKPLUS

■ 行政書士として感じる「制度では救えないけれど、制度が支えられるもの」

行政書士として日々向き合うご相談の多くも、「治らないもの」「変わらない現実」と共に生きる方々です。制度は万能ではありません。喪失の理由を教えてくれるわけでも、病気を治してくれるわけでもありません。

けれど、

  • 任意後見

  • 遺言

  • 家族信託

  • 死後事務委任

といった制度は、“生きづらさを抱えたままでも安心して暮らせる土台”をつくることができます。

映画の中で描かれたような、小さな共同体の優しさや“お互い様”の精神が息づく場所を、制度面から支えることが行政書士の役割なのだと、改めて感じました。

■ 結びに

『夜明けのすべて』は、治らないものを抱えたまま、それでも誰かと共に生きていくことの尊さを教えてくれました。

急がない社会。責めない職場。小さな善意が循環する共同体。

そんな世界が、私たちの現実にも少しずつ広がっていくように、制度と人間関係の両輪で支えていくことが、行政書士としての私の役割なのだと思います。

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