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【認知症強化月間2024】映画「ファーザー」から、認知症の当事者の目線で見える世界を体感してみませんか。【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ33】

【認知症強化月間2024】映画「ファーザー」から、認知症の当事者の目線で見える世界を体感してみませんか。【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ33】

 

  • 「ファーザー」の映画概要とあらすじについて
  • 認知症の中核症状の一つ、「見当識障害」について考えてみよう
  • 介護する家族の苦悩について考えてみよう
  • 認知症患者の「子供返り」現象についてみてみよう

それぞれ一つずつみていきたいと思います。

 

 

「ファーザー」の映画概要とあらすじについて

 

『ファーザー』は2020年のイギリス・フランス・アメリカのドラマ映画で日本では2021年に劇場公開されました。フランス人の劇作家フローリアン・ゼレールの映画監督デビュー作で、出演は、主演の認知症を発症する父親アンソニー役に名優アンソニー・ホプキンス、そしてその父を懸命に介護する娘役にオリヴィア・コールマンが演じています。原作はゼレールが2012年に発表した戯曲『Le Père 父』。認知症によって過去の記憶と目の前の現実の境界線が曖昧になっていく高齢男性を描いています。(Wikipediaから一部そのまま抜粋)本作品は第93回アカデミー賞で作品賞、主演男優賞、助演女優賞など計6部門にノミネートされ、アンソニー・ホプキンスが主演男優賞のほか、脚色賞を受賞しました。

批評家から評価の高い作品です。認知症の描き方としては、認知症発症前と発症後を時系列に描き、認知症と診断された後、本人と家族が絶望し、時間をかけて病気を受け入れていく過程などを描かれることが多い中、本作品は、認知症を発症しているアンソニー(アンソニー・ホプキンス)の目線で日常生活を描いていきます。

ロンドンに住んでいる娘のアンは父親アンソニーに認知症の症状が出始め、介護士に昼間のケアをお願いしようとしますが、気難しいアンソニーは、難癖をつけ、介護士を次々クビにしていきます。アンは恋人ポールと同居していますが、父アンソニーの介護が二人の生活の負担になっていきます。自分の人生、ポールとの生活を優先することに決めたアンは、パリに引っ越し父親と物理的な距離をとることに決めます。その事実を告げられるシーンから物語は始まります。娘アンがパリに引っ越しを決めたことでアンソニーは徐々に不安定になっていきます。見当識障害の影響で、過去と未来が錯綜します。介護士ローラと、亡き次女の顔が同一に見え、登場人物の顔と名前が一致せず混在するようになります。自分の家と娘のアンの家の区別がつかず空間の認識も曖昧になります。自分がアンソニーを通してアンソニーと同じ日常を体感することとなります。物語の終盤で、アンソニーは数か月前から施設に入っていることがわかります。

認知症の人が見えている世界を認知症でない人が全く同じ視点で見ることはできません。しかしこの映画は、見当識障害の描き方が大変見事で、過去と未来、見当識障害によって、世界が混乱していく様子を認知症でない人にも体感することができる稀有な作品です。認知症は、脳の認知機能の低下が引き起こす病気ですが、この映画を観た人はアンソニーの脳内で認知した世界をみることができます。そして、観ている中で、今アンソニーがどこにいて、誰と話し、何が起きているか段々わからなくなっていきます。この映画と同様の世界を認知症の方が見ているのであれば、なんて大変でしんどいのだろうと思います。

また、認知症の影響で、一方的に娘のアンは父親から残酷なひどい言葉をかけられ、涙を浮かべ、アンは傷つき絶望します。認知症の徘徊や排せつ入浴などのシーンは出てきません。父親はユーモアがあり、高い知性があると想像されますが、その分プライドも高く、理性が失われた鋭い言葉で娘のアンに心をえぐります。

主演のアンソニー・ホプキンスの並外れた演技力と人生経験が、見事に認知症の父親アンソニーを演じ切ります。未知の分野に80歳を超えて挑む勇気にも脱帽ですし、素晴らしい演技力です。娘アンを演じたオリヴィア・コールマンの抑えた演技で父親への愛と現実の狭間の中で揺れる演技も素晴らしいです。そして観客に認知症の人の認知の仕方を体感させた脚本には本当に驚きます。

非常に稀有な映画ですので、ぜひ認知症を理解するためにも、ご覧いただければと思います。

(出所)Wikipedia映画.com

 

 

認知症の中核症状の一つ、「見当識障害」について考えてみよう

 

今回、この映画を観て、「見当識障害」というものがどういうものなのか少しわかりました。本作品で起きた事実を点で結べば本来直線になります。しかし認知症の人は、見当識障害のため、まず過去と現在の直線が真っ直ぐ結べなくなります。過去と現在の境界が曖昧になり、過去と現在が混在し、もしくは過去の記憶がなくなってしまうこともあります。また人の顔を認識できなくなり、全くの別人が同一人物として認識されることもあるのだとしりました。自分が今どこにいるのか、誰と何をしているのか、どのぐらい時間が経ったのかもわからなくなることもあるのだとわかりました。

 

認知症の見当識障害とは、時間や場所、自分と他者との関係性などの感覚が薄れ、社会生活や日常生活に支障をきたす障害です。認知症の中核症状のひとつで、記憶障害などとともに比較的早い段階からみられます。

見当識障害の症状には、次のようなものがあります。

  • 場所の見当識が障害され、馴染みのある場所でも迷子になる
  • 人物誤認(妻を母親と間違える等)
  • 食事をとった事を忘れる

見当識障害の原因は、認知症と同じく脳の働きの低下です。脳の働きの低下は、脳の障害によって脳細胞が壊れることで起こります。アルツハイマー型認知症の場合、見当識障害は記憶障害とともに初期から見られ、ゆっくりと進行していく点が特徴です。

 

見当識障害の症状と進行は以下の順番で進行すると考えられています。

「時間」→「場所」→「人間関係」へ症状が変化する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出所)SOMPO笑顔倶楽部

 

 

介護する家族の苦悩について考えてみよう

 

劇中、認知症により配慮のオブラートが消え、父親アンソニーは、娘のアンに辛辣な言葉を数々浴びせます。その中の一つが、若くして事故死した次女の方が長女のアンより自分のお気に入りで愛していたことを幾度となくアンの目の前で話します。またアンは母親に似て頭がよくなかったなど数々のひどい言葉を浴び、傷つき混乱して、アンソニーの首を夜締めてしまうシーンもあります。病気ゆえの症状ですが、一生懸命父親のお世話をする気持ちを敢えて逆なでするような言葉を絶えず発する父親にどう対処していいか介護に徐々に自信を無くしていきます。努力が、愛情が報われず、家族にとってはとても辛い残酷な病気だと思いました。

また劇中、アンは献身的に父親を介護しますが、実際介護の現場では自分の気持ちを逆なでする暴言を吐かれ、病気だとわかっていても、傷つき動転して認知症の家族につらくあたってしまうこともあるでしょう。実際、公益社団法人認知症の人と家族の会が発行している手引きでは、認知症の人に辛くあたってしまった経験は介護家族の中で7割以上の人が経験しています。

 

 

 

 

 

 

 

(出所)公益社団法人認知症の人と家族の会 認知症の人のご家族へ 認知症のある生活に備える手引き

 

また手引きの中で、杉山孝博Drは「認知症の人の激しい言動を理解するための3原則」をあげています。

 

第1原則 本人の記憶になければ本人にとっては事実ではない

第2原則 本人が思ったことは本人にとっては絶対的な事実である

第3原則 認知症が進行してもプライドがある

 

上記の原則から、もしたとえ認知症の方の認知が事実でなかったとしても、事実でないことを説得したり強調したりするよりは、一旦問題となっている会話を中断したり、別の興味ある話題に持っていた方が良いと書かれてあります。上記原則は劇中でも丁寧に描かれています。

 

 

認知症患者の「子供返り」現象についてみてみよう

 

劇中、施設に入所したアンソニーは急激な環境な変化もあり、混乱し、ついには自分が誰だったのかも思い出せなくなるシーンがあります。そんな心細い状態で、「ママはどこ?ママに会いたい。」とまるで幼い子供のように泣きじゃくります。

アルツハイマー型認知症は、短期記憶障害で発症するのが一般的です。一方で、長い期間保持されている長期記憶については維持される傾向があります。つまり、昔のことは覚えているけれど、最近のことは忘れてしまうのが、初期のアルツハイマー型認知症の特徴と言えます。(なかまあるの記事から引用)

よく認知症の人が自分の子供も孫も忘れてしまうけれど、自分の両親や幼い頃の思い出は覚えていると言われますが、それは短期記憶から消えてしまうからと考えられます。しかし認知症患者の方の「子供返り」現象については様々な考察もあり、記憶が失われ、不安になり心の拠り所として、幼少期に両親に守られていたことと関係するのではという意見もあります。

本件とは直接関係ありませんが、亡くなる直前に既に亡くなった自分の近親者がお迎えにくると言われています。実際島根大教育学部准教授(宗教社会学)の諸岡了介さんらが07年、自宅で家族を看取った経験がある遺族を対象に実施した 「お迎え」体験に関する調査では、回答した約4割の人が「あった」と答えたそうです。(読売新聞の記事から一部抜粋)このような自分が実際その日を迎えるまでわからないことは、まだまだたくさんあるのでしょう。

 

本作品は認知症の大変厳しいリアルな側面を映し出します。しかし対処法や相談窓口、利用できる制度などを事前に知っていれば、家族内だけでなく、専門家も含めたチームで対応できるかもしれません。

人はみないずれ年を取ります。自分が認知症になるかもしれませんし、自分の親が認知症になるかもしれません。まずは自分事として考えてみてはいかがでしょうか。

認知症の記事についてはこちらにまとめています。よければご覧ください。

 

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