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映画「母の眠り」から専業主婦に育てられたキャリア世代の娘とのギャップと地域コミュニティの重要性について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ⑯】

映画「母の眠り」から専業主婦に育てられたキャリア世代の娘とのギャップと地域コミュニティの重要性について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ⑯】

 

  • 「母の眠り」の映画概要とあらすじについて
  • 日本の就業データ、女性の就業率の国際比較のグラフから、女性の就業について考えてみよう
  • 婦人会で活躍する母親が地域コミュニティで果たす役割について考えてみよう
  • どの時代、どこの国でも家族の問題は起こるもの

それぞれ一つずつみていきたいと思います。

 

 

「母の眠り」の映画概要とあらすじについて

 

「母の眠り」はピューリッツァ賞を受賞したジャーナリスト、アナ・クィンドレンの小説をもとに描いた家族ドラマで、1998年製作のアメリカ合衆国の映画作品です。本作品でメリル・ストリープはアカデミー主演女優賞にノミネートされました。主演はアメリカ映画の名優メリル・ストリープ、レネー・ゼルウィガー、ウィリアム・ハートら演技派俳優たちです。レネー・ゼルウィガーと言えば、「ブリジット・ジョーンズの日記」が日本でも有名ですが、それより以前の作品です。

新聞記者のエレン(レニー・ゼルウィガー)は、大学教授で文学賞を受賞した経歴を持つ父を尊敬し、父から多大な影響を受け、自身もジャーナリストとしてニューヨークで自立した生活を送っていました。しかし母(メリル・ストリープ)のガンの看病のために、父親の頼みで不本意ながらニューヨークから故郷へ戻ってきました。母は家庭を切り盛りし、地元の婦人クラブの顔でもある良妻賢母の専業主婦であり、幼少期からエレンは、母の平凡な生き方、小さな世界に抵抗を覚え、母のような生き方はしたくないと、母と娘の間には心理的な溝がありました。しかし母を看病し、実際に母親の家事全般の代理をつとめてみてようやくその大変さに気づき、母に尊敬の念を覚えるようになっていきます。また同時に、今までは尊敬と憧れの対象であった父親の不完全な姿や、母の看病に真正面から向き合わない弱さや老いなど、初めて知る父親の姿に失望と葛藤を抱えます。そんな中、母親から人生、結婚、幸福について、渾身の想いを聞き、両親それぞれに対し理解を深めます。母親はひどい苦しみの中、息を引き取ります。エンディングにはミステリーの要素もあります。

この映画は観ていて、他人事と思える距離感ではありませんでした。40代から60代の仕事を持つ女性の母親世代はおそらく専業主婦が大半だったでしょう。このような母娘の心理的な距離感や世代的な断絶について、心当たりのある人は多いのではないでしょうか。また父親は強いものでなくてはならないという思いが強い中高年以上の男性にも観てもらいたい映画です。

(参考)Wikipedia映画.com

 

 

日本の就業データ、女性の就業率の国際比較のグラフから、女性の就業について考えてみよう

 

映画の時代設定は1988年前後で舞台はアメリカ合衆国ニュージャージー州です。1988年は今から36年前です。その4年前の1984年にはロサンゼルスオリンピックもあり、アメリカの大統領はロナルド・レーガン(在任: 1981年1月20日 – 1989年1月20日)です。私はその頃まだ子供でしたが、強いアメリカという印象があります。

日本に目を向けてみると、2024年の現在は日本でも一億総活躍社会、ジェンダーギャップの解消、SDGsなど、女性が社会で活躍することは何も特別なことではなく当たり前の事になってきました。日本では共働き世帯が専業主婦世帯を超えたのは1997年ですが2012年までは専業主婦世帯は800万世帯弱の水準で推移していましたが、2023年には517万世帯とここ10年で一気に250万世帯強の専業主婦世帯が減りました。日本に限って言えば、ここ10年で女性の就業や権利に関する意識が大きく時代が変わったのでしょう。

(出所)独立行政法人労働政策研究・研究機構HPからグラフを引用

(出所)平成19年男女共同参画白書

 

 

婦人会で活躍する母親が地域コミュニティで果たす役割について考えてみよう

 

個人的に興味がひかれたのは、母親の婦人会=ミニーの会です。ミニーの会は、仮装パーティー、クリスマスツリーへのイルミネーションを飾る仕事、町のボランティア活動など地域の円滑化のために力を尽くします。そのための会合が自宅で催され、食事作りやケーキ作りが活発に行われていました。ミニーの会はそれだけではなく、同じ婦人会の仲間で大変は状況にある人を順番に車で連れ出し、気分転換をはかったり、徐々に病魔に身体を侵されていく母親の家をみなで訪問し、一緒に片付け、花を飾りつけてくれます。大学教授の父親には出しゃばりと怒られることもあるとのことでしたが、母親が誇りをもって打ち込んでいる活動であることがわかります。身近に助け合えるコミュニティがあるのは、とても心強いことではないかと思います。また母親たちが専業主婦の中で地域とつながり、貢献もできるとても大切な場だったのではないでしょうか。

超高齢社会で私たちがこれから目指す社会は「地域共生社会」です。しかし血縁、地縁などの共同体が急速に失われてきています。総務省の「都市部のコミュニティの現状と課題」の中でも地域コミュニティや近所付き合いの希薄化が指摘されています。このような地域活動がこれからとても大事になってくるでしょう。

(出所)総務省「都市部のコミュニティの現状と課題」

 

 

どの時代、どこの国でも家族の問題は起こるもの

 

これまで、是枝作品を本ブログでは数多く取り上げてきました。是枝作品の家族の描き方がリアルで、日常に近いと感じていました。特に樹木希林さんの食事の支度のシーンが秀逸で、見事な手さばき、おいしそうな食事、立ち上る湯気が、台所の臨場感を感じます。また食事のシーンが比較的多いのも観ている側としては楽しいのです。今回の「母の眠り」の中でも、オズの魔法使いのドロシーに仮装した母親が、父親の誕生日に大きなケーキを作っていました。またミニー婦人会用の昼食づくり、感謝祭のディナー、弟の誕生日のケーキ作りなどオーブンを使った料理シーンがたくさん出てきます。色んな家族や家庭があるのは承知の上ですが、食を囲むのが家族であるという大前提があるのかもしれません。そしてどの時代、どこの国でも夫婦の問題、親子の問題はその家族の数だけ存在する。何も問題のない理想の家族なんてないでしょう。

今回の映画は、最後には母親の賢さと強さ、そして深い愛情がむき出しになります。娘が自分の生き方を嫌悪し理解されない寂しさ、大学教授の夫の内面のもろさ、自身の孤独を全部ひっくるめて受け止め、それでも娘の幸せを願わずにはいられない母親。どうしても生き方は対比して捉えられがちですが、どんな生き方を望んで実践してもいいのではないでしょうか。良いも悪いもなく、ただその人がその人のままで生きられれば、それでいいのではないかと思いました。

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