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10.302024
映画「梅切らぬバカ」から、障がい児を持つ親の「親亡きあと」問題と地域共生社会について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ30】
映画「梅切らぬバカ」から、障がい児を持つ親の「親亡きあと」問題と地域共生社会について考えてみよう【話題の映画・ドラマ・アニメから考えるブログ30】
- 「梅切らぬバカ」の映画概要とあらすじについて
- 「親亡きあと」問題の対応方法として遺言を書くという方法があります
- 「親亡きあと」問題の対応方法として成年後見制度を利用するという方法があります
- 映画の中で描かれるグループホーム反対運動にみる、地域共生社会の難しさ
それぞれ一つずつみていきたいと思います。
「梅切らぬバカ」の映画概要とあらすじについて
『梅切らぬバカ』は、2021年に公開された日本映画です。監督・脚本は和島香太郎。これまで日本映画の若手映画作家を育ててきた「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の長編映画として選出・製作されました。和島香太郎監督はドキュメンタリー映画にも関わり、障がい者の住まいの問題も取り上げてきました。老いた母親と自閉症を抱える息子の日常生活と、彼らを取り巻く人々の人間模様を描いた映画です。母親役には誰もが知る大女優、加賀まりこ、自閉症を抱える50歳を迎える息子にはお笑いタレントのドランクドラゴンの塚地武雅が演じています。
山田珠子(加賀まりこ)は、重度の自閉症を抱える息子の忠男(塚地武雅)と大きな梅の木がある古民家で長く二人で暮らしてきました。忠男は「忠実なる男」から親しみを込めて「ちゅうさん」と母親の珠子から呼ばれています。珠子は占い師で、歯に衣着せぬ物言いでいつも家の外には相談にきた女性達が並んでいます。時間に忠実な規則正しい生活を繰り返す忠雄と珠子。ちゅうさんは日中は就労支援施設で、ケーキの箱を組み立てる仕事をし、夜は二人で食卓を囲みます。ちゅうさんが50歳の誕生日の夜、ぎっくり腰になってしまい、支えようとした珠子と共に、畳の上にひっくり返ってしまいます。珠子は小さく「このままでは共倒れになってしまうかもしれない」とつぶやきます。この件をきっかけに、珠子は自分が亡きあとの事を考え、ちゅうさんはグループホームで集団生活を行うことになります。珠子の隣家に越してきた里村家も家庭に問題があるようですが、一人息子の草太は珠子やちゅうさんと徐々に心を通わしていくことになります。草太のちょっとした誘いが思いがけない事件を引き起こし、地域住民の人からグループホームの反対運動が巻き起こり、結果的にちゅうさんはグループホームを出て、再び母親珠子と二人で暮らすことになります。
描かれ方としては非常に丁寧に淡々と日常生活が描かれており、問題提起をしているように見受けられますが、解決策は提示されておりません。些細な出来事が、誰の目を通すか、障がい者の人の行動を理解できない怖さからどんどん大事になっていきます。しかし、作中では反対運動を行う人たちを責めているのではなく、「こういうことも起こりうるよね」という可能性として客観的に描かれています。住民運動を起こす人たちにもずっとこの地に住んで営んできた生活と歴史があり、また人それぞれ価値観もあり、地域共生社会の難しさも突き付けられます。
加賀まりこさんと塚地武雅さんの演技が素晴らしく、二人の間に流れる信頼感と愛情が画面越しに伝わってきます。加賀まりこさんがインタビューの中で、「この映画を観たあと、みんなにちゅうさんを好きになってもらいたい」と言っていました。ちゅうさんのような人を見かけたら、手助けしなくてもいいから微笑んでもらいたいと。劇中でも障がい者に向けられる厳しい視線や意見には毅然と、「それはお互い様でしょ」と相手を諭しますが、ちゅうさんが隣家に無断で立ち入ってしまった時には、「ごめんなさい」と大きな声で謝り、ちゅうさんを全力で守ろうとします。
題名の「梅切らぬバカ」は「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という諺から引用されています。諺の意味は「樹木にはそれぞれ特徴や性格があり、それらに合わせて世話をしないとうまく育たない」という戒めから転じて「人間の教育においても自由に枝を伸ばしてあげることが必要な場合と手をかけて育ててあげることが必要な場合がある」という意味です。
監督は公式HPで「不要な枝は切らなきゃ駄目だというけれど、結局何が不要なのか、現実を梅の木に置き換えると、分からなくなっていく。人と関わっていく難しさに悩み、間違って切り落としてしまう枝もあると思います。そんな失敗や、よい方向に向かっていくプロセスを感じ取ってもらいたいです。」と述べています。
「親亡きあと」問題の対応方法として遺言を書くという方法があります
劇中では、ちゅうさんが就労支援施設に通っているシーン、グループホームに入居するシーンなどが描かれていて、珠子さんが障がい福祉サービスを利用していることがわかります。日々の生活では困っていませんが、いずれ自分が亡くなった後、遺すことになるわが子が、ちゃんと生活できるのか、生きていけるのか心配する親御さんは多いでしょう。
今回ちゅうさんは珠子さんと二人暮らしなので(ほかに兄弟がいないと想像される状況)、珠子さんが亡くなった後、子であるちゅうさんに不動産預貯金を含め、全財産をちゅうさんが相続することになります。
しかし、もしちゅうさんに兄弟がいた場合、遺言書がない場合は、ちゅうさんと兄弟で話し合い、相続分を決め、遺産分割協議書を作り全員が著名捺印する必要があります。
また、障がいを抱えるちゅうさんに、他の兄弟より多く残したいと思うかもしれません。また逆に兄弟に将来的な面倒をみてもらうことを前提に、兄弟に多めに残したいというケースもあるでしょう。
その家族により、遺したい遺言書の文言は違うと思いますが、遺言書がない場合は、相続人同士の話し合いとなり遺産分割協議書が必要となりますので、前もって準備できるのであれば遺言を準備した方がいいでしょう。
その際に、遺言には自筆証書遺言と公正証書遺言の二種類がありますが、自筆証書遺言は簡単に、費用もかからず書くことができますが、自筆証書遺言の書き方通りにしないと、せっかく書いても効力のない遺言になってしまうケースもあります。お金と時間はかかりますがなるべく専門家にも相談し、公正証書遺言をおすすめします。
またその際に、付言事項に遺された子供たちに想いを伝えるメッセージを残すことをおすすめします。障がいのあるお子さんと、障がいのないお子さんがいた際に、障がいのあるお子さんに時間を多く費やすことの方が多かったのではないでしょうか。お子さん自身も状況は理解できていると思いますが、感情面では疎外感や寂しい思いをしてきたかもしれません。そんな今までの苦労を労い、感謝を伝える文言があれば、遺されたお子さんの気持ちが少しでも癒されるのではないでしょうか。また平等でない差のある相続分であっても事情を説明すれば、幾分気持ちが整理されるかもしれません。
付言事項は、遺された方への最後のメッセージとなります。兄弟間の紛争防止なども側面もあるかもしれませんが、ぜひ率直な言葉で今までの想いを表現してみてはいかがでしょうか。
遺言は当事務所でも対応しております。良ければお気軽にご相談ください。
「親亡きあと」問題の対応方法として成年後見制度を利用するという方法があります
前章で、遺言の説明をしましたが、親亡きあと問題の対応方法として、成年後見制度を利用するというやり方もあります。
成年後見制度は民法868条に基づいた、身上監護と財産管理が主な業務となります。
成年後見人が行う身上監護とは、援助を受ける人が安心して快適に生活できるように、居宅介護の契約や施設入所の契約などを法律的にお手伝いすることです。身体の介護や掃除などを手伝う事はできません。
しかし、成年後見制度は制度が始まってから20年以上経ちますが、利用者が増えない現状があります。
一度成年後見制度を利用すると、被成年後見人が亡くなるまで途中でやめることができません。担当者を変えるのも難しいとされています。また成年後見が終わるまで、成年後見人に継続的に報酬を払う必要があります。現在成年後見制度を利用しやすくするため、制度を見直す動きも出ていますが、現状では制約事項が多いため、利用する場合はご本人だけでなく、家族内でよく話し合って決めた方が良いでしょう。
(出所)NPO法人ら・し・さ 親亡きあとの支援ハンドブック、厚生労働省HP
映画の中で描かれるグループホーム反対運動にみる、地域共生社会の難しさ
本作品の中で、グループホーム反対運動があります。反対の理由の中で、「子供の頭をたたいた」「地価が下がるから」、など直接的な理由から間接的な理由があげられています。グループホーム側も朝のごみ捨て時にはいつも大きな声で挨拶をして地域に馴染もうとしている様子が見受けられます。しかし反対運動をする側にも今までの生活や歴史があり、一方的に善悪では語り切れないデリケートで複雑な問題です。
2016年 3 月 1 日から 4 月30日から厚生労働省で、「グループホーム職員の地域関係形成支援に関する調査」が行われ、調査結果が発表されています。その中で、グループホームと地域社会との地域との関係形成に関するグループホーム職員の取り組み状況は,住民との交流ではお互いが都合を合わせる必要のある関わりは少なく、自治会等との交流は参画の程度が低い。トラブルへの対応や回避を重視している(第64巻第15号「厚生の指標」2017年12月から一部そのまま抜粋)という結論が導き出されました。調査結果から地域住民との挨拶は全体で95%以上となっています。
古民家で二人で淡々と生きる親子の姿に心が温まった方も多いでしょう。しかし、いつまでも永遠に続く生活でもありません。また地域社会で障がいのある方が生きていく上での厳しい現実もあります。もし、遺言や成年後見でお困りの方がいらっしゃいましたら、当事務所でもお話を伺い、対応することもできますので、お気軽にお問合せください。
また成年後見制度に関しては、当ブログ内、こちらに、地域共生社会に関しては、こちらに記載してあります。
よろしければお目通しください。