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10.302026
行政書士が読み解く映画『ルノワール』。1980年代の制度の隙間と、自立を選んだ団塊ジュニアの原風景

1980年代を舞台にした映画『ルノワール』を観て、まず胸に浮かんだのは、物語そのものよりも“あの頃の空気”でした。
末期がんの父、管理職として働く母、そして妄想と現実の境界を行き来する小学五年生のフキ。彼女の世界を見つめていると、私自身の昭和の記憶が次々と呼び起こされていきました。
家の鏡から吊り下げられたブドウの置物、部屋のあちこちに立てかけられた重厚な衝立、手紙をしまう吊り下げポシェット。どの家にも立派な応接セットがあり、今思えば「シンプルイズベスト」や「断捨離」とは無縁の、モノに溢れた豊かな時代でした。レース編みを頭にかぶってお化粧ごっこをしたことや、前髪を口に入れて固まって叱られたこと。あの頃の家の匂いや光の色まで蘇ってくるようでした。
映画タイトルの由来
タイトルの『ルノワール』は、フキが父の入院先の病院で見つけた、一枚の絵の販売ポスターに由来します。明るく、美しく、洗練されたルノワールの描く少女像。それは、フキにとっての「西欧への憧れ」であり、まだ見ぬ「豊かな世界」への象徴だったのかもしれません。
⚖️ 「家族依存」だった1980年代の光と影
フキが胸から鍵を下げて歩く姿を見て、「かぎっ子」という言葉が一気に現実味を帯びました。私たち団塊ジュニアは、まさにあの“放任と自由”の時代を生きてきた世代です。当時は専業主婦が主流でしたが徐々に働く母親が増え、子どもは自分で帰り、自分で時間をつぶし、時に危険と隣り合わせでした。フキが伝言ダイヤルで危うい大人に巻き込まれそうになる場面は、当時の空気をよく表しています。今なら大問題ですが、あの頃はどこか大らかで、子どもが世界の隙間を自由に歩き回っていた時代でもありました。
ただ、自由だったからといって、子どもが軽やかに生きていたわけではありません。フキは、父の職場での評価を知ってしまい、マンションの上の階のお姉さんの秘密を知り、友達の家庭の事情に触れてしまう。知りたくないことを知ってしまう痛みと、世界が広がる喜びが同時に押し寄せる。その“混ざり合った感覚”は、私たちの子ども時代にも確かにありました。
1980年代は、社会全体が右肩上がりで、ロサンゼルス五輪の高揚感もあり、日本が勢いを持っていた時代です。一方で、家族を支える制度はまだ未成熟でした。児童虐待防止法もDV防止法もなく、介護保険制度も存在しない。家族の問題は家族の中で処理するしかなく、子どもはその空気を肌で感じながら育っていました。
家族の問題は文字通り「密室」の出来事であり、家族の中で処理するしかない。行政書士として相続や家族の問題に関わる今、あの頃のフキのような子供たちが抱えていたはずの「声なき声」の重さを思わずにはいられません。
👩💼 1986年、女性が世界へ向かう予兆
フキの母親が管理職として働く姿は、1986年の「男女雇用機会均等法」施行を象徴するようです。内閣府の統計(男女共同参画白書)を見ても、女性の就業率は1980年代から一貫して上昇しており、25〜44歳の層では現在80%を超えています。フキが英会話を習うシーンは、まさに「女の子が世界へ向かう時代」の幕開けでした。
私たちは“制度が未成熟な時代に育ち、制度が整った頃にはすでに大人になっていた”世代です。このねじれは、私たちの価値観に大きな影響を与えました。だからこそ、私たち団塊ジュニアは、
「個人主義」「自由」「自分で未来を切り開く感覚」
といった価値観が、より本質的なのだと思います。
放任されていたからこそ、自分で考え、自分で動き、自分で世界を広げる力が育った。親の背中を見て、働くことが当たり前で、女性も外へ出ていくことに違和感がなかった。そして、家族の重さも、自由の代償も、子どもの頃から知っていた。
🌸 40年後のフキ、そして私たち
フキの40年後を想像すると、そこには私たちの姿が重なります。自由で、好奇心旺盛で、どこか孤独で、そして自分の人生を自分で選ぶ世代。
昭和の匂いと、制度の隙間と、自由の手触り。あの時代を生きた私たちの記憶を、フキの物語がそっと呼び起こしてくれる。そんな映画でした。
📘 1980〜2000年代の制度の変遷
実務の現場では、これらの制度の有無が家族の運命を大きく左右してきました。
1980年代:制度が未成熟で「家族依存」の時代
老人保健法(1982)、男女雇用機会均等法(1986)
家族の問題は「自己責任」とされる風潮が強かった。
1990年代:制度の再構築が始まる
社会福祉八法改正(1990)、介護保険制度の準備
家族の限界が社会問題として可視化され始める。
2000年代:家族の外側に制度が広がる
介護保険制度(2000)、児童虐待防止法(2000)、DV防止法(2001)
家族の問題がようやく「公的支援の対象」へと変化した。
📊 1980〜2025年 女性の年齢別就業率データ(公的統計)
2024年の女性就業率(15〜64歳):74.1%
25〜44歳では:81.9%
いわゆる「M字カーブ」の底が上昇し続け、現代では多くの女性がライフステージに関わらず仕事を継続する社会へと変遷しています。
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